着物の仕立てと仕立て直し伊藤和裁

着物の仕立て

留紺地流水花文様振袖の仕立て


麗しき豪華絢爛な(ウルワシキゴウカケンランナ)晴れ着。振袖は大和撫子(ヤマトナデシコ)が華やかな時期、場所で纏う(マトウ)衣装です。
振袖は、その晴れやかな着物姿に娘様との今日までの思い出が、走馬灯のように脳裏を廻るご両親様に、一入(ヒトシオ)の感慨に満たさしてくれる着物です。
振袖は、日本が世界に誇る染めと織りの技術の粋を極めた逸品です。写真の振袖の地色は、黒色の様に思えますが、実は紺色(コンイロ)です。藍色(アイイロ)を、最も濃い色に染めた色です。この色は『これ以上、濃い藍色に成らないでほしい。』という色で、名前を留紺色(トメコンイロ)と言います。この留紺色を地色に、振袖の模様は、水文様の流水(リュウスイ)の曲がりくねった水の流れを土台に、その川を流れる 菊や撫子(ナデシコ)、橘(タチバナ)、落ち葉の楓(カエデ)、桐(キリ)、水面に映る松の木や露草(ツユクサ)などの 模様が風景の動画を観ているかのように華やいでいます。京都、城南宮(ジョウナングウ)の曲水の宴(キョクスイノウタゲ)を思い起こさせてくれます。
振袖の上前身頃には、金コマで細工、縁(フチ)取られた雪輪文様の中に、満開の菊、松の木、その松に留まろうとしている鶴、そして、平安時代の御所車までもが描かれています。雪輪の中は、御所解き文様で表現されています。水文様の流水は、果てしなく続いて変化する水の姿を捉えて、千変万化(センペンバンカ)の水模様があります。生命の源でもある水が、一滴の水から始まって、大海に流れ注ぐまでの様子を、あたかも人生の流転(ルテン)に、例えて瞬時に捉えて描き、永久の形として、多様に表現しています。この振袖の花模様で、特に目を引くのは菊模様です。陰暦の9月9日の重陽(チョウヨウ)の 節句に菊の花を水に浸し、(菊の朝露に見立て)、菊の香りと共に真綿に湿らして、体を拭い、延命長寿を願いました。
どの吉祥文様も、娘様の成人の日の門出をお祝いしています。
仕立てをする時は、この模様たちを全て合わせるのが理想です。しかし、お客様の体型や希望寸法により、合わせられない事もあります。
ですが、前身頃の胸元と衽付け線(オクミツケセン)、背中心の模様は、絶対に合わさなければなりません。着物は洋服とは違って、縫い目を割らずに5厘のキセを掛けて、肩倒しにして縫い合わせます。つまり、キセ山でキッチリ模様を合わせて、その5厘中に縫う事になります。
今回の振袖の様に、斜めの模様が多いと少しズレたり、少し先の斜め線が合わなかったりで、少し縮めたり、伸ばしたりして、模様を合わせます。
掛け衿と胸の模様が、ズレるとすごく目立ちます。この振袖は、衿付け線が、どこか分からないくらいに見事に合わさっています。『さすが。』と誇らしくなる、最高の出来栄えに仕立て上げる事が出来ました。

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